動かぬ星々











真っ暗な部屋の中は宇宙で永遠の淵。


その他大勢の中の一人でしかない自分は頼りない綱の上をぎりぎりで歩いているサーカスの団員のようにふらふらふらふらしていて、でもそれはきっと大衆という運命共同体の一員になるための演技でしかなかった。少なくとも、俺にとって。

簡易プラネタリウムは1万円以内で買えてしまった。
部屋を真っ暗にし、そしてそれからスイッチを入れる。
ぶうん、という音と共に部屋の天井には星が広がった。
しかしあいにくながら自分に星の知識など、欠片もなかったからどれがどの星で、なんていう名前で、どのような結びつきで正座になるのかなんてちっとも、さっぱり。その他大勢で生きている人間にそんな知識は必要なかった。目立つところも特徴もないただのサラリーマンなど、世間からどうとも捉えられないのだ。流れ星は流れない。この部屋にも、俺が立つ地面の、その上の空にも。真っ暗な部屋の中は宇宙で、永遠の淵。ぎりぎりでぐらぐら歩くピエロのように歩いて、周りと調子を合わせる人間たち。


無様。無様だ。そう無様。
先頭を行くものが転べば自分たちも転ばなければならない。躓くものが無くても転び、笑い、そしておべっか。上司の機嫌をとる。道化を演じなければいけないのだ。そうしなければ生きてゆけない。そうしなければ、気に入られなければ。頭を下げ、これでもかというほど自分の価値を下げて相手を持ち上げ持ち上げなければいけないのだ。こんな生き方が、果たして正しいのか。正しいのか?正しい、のか。

動かない星を数える。北極星はあの位置だ。
そして、自分の位置はここだと確認する。

まだ、大丈夫だ。



人はこれを必死と呼ぶ。