Cosa vuole?











「よしなよ」
止められた右手、彼に掴まれた右手を見る。
「また人をおもちゃにして」
「これはもうひとじゃないよ」
「だからねえ、どうしてそう、死体ばかり見つけるかな、君は」
「あちこちに落ちてるじゃん」
「腐ったやつはね。君が見つけるのはそういう、真新しいものばかりじゃないか」
「ふふ。いいでしょう」
溜息と一緒に聞こえた言葉には諦めと嫌悪が含まれていた。
「気持ちの悪い子」
「あんたが」
赤黒くどろりとした体液のついたスプーンを人差し指と親指で持ってぷらぷらさせながら言う。
「どこかでのたれ死んでも見つけてあげるよ」
それはどうも、と彼が言った。





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これは右のめだま。
「それは?」
真ん中の、と言うと反論するもの多数。なに、真ん中って。そんなもの無いよ。いやいやあったんだよ、真ん中のめだまが、たしかに。
「目がみっつあるわけないでしょう」
「あったよ、みっつ」
「うそ」
「ほんと」
スプーンをぷらぷら、そんな会話を何人かでやっているとカフカが帰ってきた。
「みてみて、三つ目の赤ん坊の死骸!目は何か、刳り抜かれててないけど」
うれしそうににこにこにこにこして左足首を掴んでだらんだらんする。その赤ちゃんは僕が見たときより腐敗が進んでいた。











金貨を数えてると調子のいい双子がやってくる。ミゼラとラブル。横じまの双子はそっくりそのままおんなじお顔。たぶんどっちかが鏡の中から出てきたのだ。
「いいなあ、一枚頂戴よ」
「ほんと、一枚頂戴」
「やだ」
「けちんぼー」
会話をしていると角を曲がってやってきたのはミチェ。そばかすも赤髪もすべてがみすぼらしいレディ。かさかさのくちびるで、ゼトロが最近いない。口を尖らせて言った。みんな知ってる。ミチェはゼトロのことが好きなのだ。
「どっかで死んでんじゃないの?」
「死なないわよう。だってゼトロ強いもん!」
「でもこないだカラーギャングに追われてた」
「嘘」
「ほんと」
「いつ」
「おととい」
青ざめるミチェ。わはは青くなったーと双子が笑って指をさした。ぼくは言う。ゼトロはきっと死んでるよ。
「そんなの嘘よ」
「嘘じゃないよ。だってぼくがいうんだもの」
双子は二人いっぺんに立ち上がった。
「そうだねキッチュは天才だもの」
「死んだものを見つける天才だもの」
「キッチュがいうなら」
「ゼトロは死んでる」
ミチェは一歩後ろに下がった。
それからぼくの金貨袋を見て、口を押さえ、わなわなと震えた声を出す
「あんた、売ったの…!?」
何のことだか。
「さっぱりだよ」











ぼくは真新しいやつを見つけるてんさいなのでミチェより先に見つけた。ゴミ捨て場の手前のほうで足が一本変な方向に曲がって寝てる。すぷーんでつついても何も言わないゼトロ。親指でまぶたを開けて、スプーンで目玉をくりぬいても無言だった。
「青色目玉、いいねえ」
二つ目を刳り貫いたとき後ろで双子がくすくす笑った。一番に見つけるとかゆっといて。自分が仕向けたんジャン。悪い子。悪い子。くすくす笑う。ゼトロの目玉をビンにつめてぽっけに入れて立ち上がった。
「仕向けたって?」
「カラーギャング、に、売ったでしょ?」
「ゼトロの居場所売ったでしょ?」
「じゃくにくきょうしょく、ってカフカが言ってた」
「そうさ、弱肉強食!」
「けど君は弱者のはず」
「げこくじょうって、ゼトロが言ってた」
「成り上がりともゆうのさ」
「あはあはは、ゆうのさ!」
おかしいおかしいとけたけた笑う。真っ黒のそら。汚い雨が降るそら。どうせみんなすぐに死ぬんだ。ゴミ捨て場。ごみ、ごみごみごみごみ。カフカもミチェも変な咳をして死ぬんだ。自転車、テレビ、屑、骨、機械。だったらちょっと早く死んだって一緒。ごみごみごみ。その上の、ゼトロ。

どうせ死ぬんだったら。

ぼくにその目玉、くれてもいいじゃない。

「…ミチェに言うの?」
「何を?」
「何を?」
「これのこと」
「ゆわない」
「ゆわないよねえ」
だって君。言いかけてくすくす笑う双子は手を繋いだまま二人してぼくの顔をみて笑う。誰もいない真夜中のゴミ捨て場。真っ暗の中のゼトロ。真っ暗の中の双子。真っ暗の中の…
「俺しってんだ」
「俺も知ってる」
まるで空気に話しかけられているみたいに、左の耳からはミゼラ、右の耳からはラブルの声がする。それはおなじタイミングで、同じ速度で、同じ声で


「「君が泣いてるその理由を、サァ。」」


ポケットの中の金貨の重みとポケットの中の目玉の重さと双子の声が世界のすべてなんだと、変な咳をひとつしてにっこり笑って見せた夜。



生きた君の声を思い出した。